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生命保険の営業マンが損害保険を売る理由

保険募集人にも色々ある

損害保険の募集人の中には、最初から損害保険の販売を主な業務としていた人だけではなく、元々生保の営業マンとして働いていたのに、損害保険の販売を行っている人もいます。損害保険と生命保険は同じ保険ではありますが、その仕組みも販売手法も全く異なるものです。何故生命保険の営業マンが損害保険を販売しているのでしょうか?今回はその背景について、いくつかお話したいと思います。

生命保険の販売手法

損害保険は自動車の事故に備える(自動車保険)、建物の火事に備える(火災保険)、自分自身の怪我に備える(傷害保険)、といったリスクが明らかになっているものですから、基本的な商品内容さえ把握していれば販売する側にとってはそう難しい商品ではありません。しかし、生命保険は少し違います。病気になる可能性があるから医療保険に加入する、将来子供の教育費が足りなくなるかもしれないから学資保険に加入するといった、10年20年先の未来を予測して加入するものです。また、損害保険は加入したいと希望したら代理店と契約手続きを交わせばその時点で契約は完了し補償がスタートしますが、生命保険は代理店と契約手続きを交わしても契約完了とはならず、保険会社が審査し、それで加入の是非を決めます。これを保険の媒介と呼びます。つまり代理店が「新しい生命保険だから加入しましょう!」とか「お子さんが生まれたから学資保険を準備しましょう!」と案内をしても、保険会社に断られることがあるのです。断る理由は、例えば契約者が過去に病歴があるからとか、健康診断の結果が良くないので保険金を支払う可能性が高いとか色々あります。いずれにせよ、損害保険と生命保険は販売手法が全く違うのです。では、何故生命保険の営業マンはわざわざ損害保険を販売するのでしょうか?生命保険に比べて販売が簡単だから?答えは次の段落でお話します。

損害保険はドアノック商品?

ドアノック商品という言葉を聞いたことがありますか?保険業界で使われる言葉で、説明が比較的簡単でお客様からの受けが良い商品のことを指します。最も分かりやすい例が、学資保険です。子供が生まれた家庭では将来のために貯蓄をしておこうと考えており、そこには保険に加入しても良いという意識が内在しています。そのタイミングで学資保険の説明をすると、「良い保険を教えてくれてありがとう!」と感謝され、加入もしてもらえるわけです。しかし、代理店狙いは学資保険に加入してもらうことだけではありません。学資保険の加入をきっかけに、他の保険の見直しやおすすめといった新しいビジネスチャンスを得ようとします。ゆえに、お客様に扉を開いて貰って話を聞いてもらうきっかけになる商品を、「扉を叩く」「開ける」等の単語から連想してドアノック商品といいます。生命保険の募集人は、損害保険をドアノック商品と同じように捉えているからこそ、未経験の損害保険の分野であっても販売しようとするのです。

損害保険はビジネスチャンスが多い?

生命保険は1度加入すると保障が10年だったり、一生涯だったりしますので、場合によっては契約後に代理店と会わないままになることも。しかし、損害保険は1年や2年で満期を迎え、必ずその更新手続きのために連絡を取りますから、当然生命保険よりもお客様に会う機会が増えます。契約者も何の用もないのにいきなり代理店から連絡が来たら「新しい保険を勧められるのかな?」と思って身構えてしまいますが、保険の更新の手続きとなれば素直に話を聞くことでしょう。代理店は更新の手続きを理由にお客様と会うことで、子供が生まれた等家族構成に変化はないか、保険の見直しを検討していないか等情報収集をします。もし子供が生まれていたら学資保険の案内や親の保障額を増やす等の案内が出来ますし、保険の見直しを検討していれば他の代理店に契約を取られる前に自ら提案できるわけです。

損害保険を販売する生命保険営業マンの実態

損害保険を販売する生命保険営業マンとして、最も身近な存在は「かんぽ生命」です。日本郵政グループの保険分野を担当する会社であり、全国どこにでも支店があるかんぽ生命が、一部の窓口で「郵便局の自動車保険」を販売しています。郵便局の自動車保険」は東京海上日動火災保険を中心にあいおいニッセイ同和、損害保険ジャパン日本興亜、富士火災、三井住友海上の5社が共同で運営している保険です。(共同保険といい、証券発送や事故処理はメインである東京海上日動が行っています)これまで生命保険の話しかしなかった営業マンですが、「自動車保険はどちらで加入していますか?」「保険に関するものを全部私どもに任せて下さいませんか?」と、自動車保険販売にも力を入れています。まだ初めて数年なので、お客様にご案内してすぐ成約できる営業マンは僅かですが、お客様から車検証のコピーや保険証券のコピー等を頂ける様日々取り組んでいます。皆さんも、郵便局の窓口で自動車保険の勧誘をされる日が来るかもしれませんね。

ある代理店の話

ここで、ある生命保険代理店の話を紹介させて頂きます。その代理店は国内生保を中心に販売する代理店でしたが、新たにペット保険を販売することになりました。ペット保険は、ペットの病気や怪我に備える損害保険です。何故ペット保険を販売することにしたのですか?と聞くと、次のような答えが返ってきました。「我々が販売したいのはペット保険ではなく、あくまで生命保険。そして我々は、ペット保険に加入したいと思っているお客様を、金銭的に余裕のある人だと考えている。もしそのお客様に使い道のないお金があるとしたら、生命保険で運用することをご案内する等の情報提供を行いたいと思っている。だから、ペット保険の代理店になった」まさしく、ペット保険をドアノック商品と捉えているわけですね。朝日生命や明治安田生命に所属している、いわゆる生保レディと呼ばれる人達も損害保険を販売しています。もはや、1人の募集人が損害保険と生命保険を併売するのは当たり前と言えます。

顧客の囲い込み

プロ代理店は、1人の顧客から自動車保険も火災保険も生命保険も加入できる保険は全て自社で加入して欲しいと考えています。自動車保険はディーラーで、火災保険は不動産屋で、生命保険だけプロ代理店となれば、別の代理店に契約を奪われる可能性もありますし、できるだけ多くの契約で繋がっておきたいのです。代理店では更新手続きや事故処理の合間に、顧客の契約データを整理して、傷害保険に加入していない人だけをピックアップしてDMを発送したり、誕生日が間近の人には生命保険の新商品を案内したりと(誕生日を迎えると契約年齢が1つ上がって保険料が上がるから)、顧客の囲い込みに向けた取り組みを行っています。

話を聞くだけでも

生命保険の営業マンが損害保険を売る理由、分かって頂けましたか?彼らの目標は本業の生命保険販売ですので、決して損害保険をメインで販売しようとしているのではありません。勿論加入者がたくさんいればマージンが入ってくるので、決して嫌なわけでもないのですが。とりあえず、生命保険特有の長期もしくは終身契約という契約方式のせいで、この併売が広まったと思って下さい。生命保険の営業マンは、損害保険について研修を受けたり勉強会に産科しながら努力を重ね、日々お客様のためになるよう働いています。もし貴方が生命保険の営業マンから声をかけられたら「貴方は損害保険のプロじゃないから、説明は結構です」と言わず、話を聞くだけでもして頂きたいと思います。