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東日本大震災で体感した保険会社の使命

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東日本大震災から4年

東日本大震災では地震、津波の被害で数多くの建物が流出し、亡くなられた方や負傷された方等たくさんの被害者が生まれました。このような災害時に、保険会社はどのようにあるべきなのか。私は保険会社に勤務していた時に東日本大震災を体験しました。幸い東北地方以外での勤務でしたので、被害は少なくて済みましたが、その時体験した非日常を通じて、自分なりに感じた保険会社の使命や果たす役割等について書いていきたいと思います。

最優先はお客様対応

災害に遭ったからといっておちおち休んでいられない職種には、自衛隊、医療関係、マスコミ等があると思いますが、保険会社も休んでいられない職種ではないかと思います。甚大な被害が出ているのですから、個人のお客様からは地震保険、傷害保険、生命保険等住まいや怪我に関する事故報告が殺到することは想像に難くありません。法人のお客様も、工事保険や店舗休業保険等業務に関する事故報告をされることでしょう。その件数は被災地域の社員だけでは到底対応しきれる件数ではありませんから、全国各地から応援を募らなければなりません。とはいえ、このような応援は精神論だけでできることではありません。保険会社も同じく被災地域に営業所があるのですから、余震は続いているし、交通の便は不自由だし、働く人間が増えれば増えるほど水や食料も確保しておかなければなりません。一方で被災されたお客様は1日でも早い生活の再建を願って、保険会社から支払われる保険金を心待ちにしています。保険会社の準備態勢が整っていようがいまいが、事故報告はどんどんやって来ます。よって保険会社は、社内のインフラ整備や社員や代理店の安否確認等と同時平行させながら、お客様対応を最優先でしなければならないのです。実際私が勤務していた時も、通常土日が休みなのにも関らず、ベテラン社員が休日返上で勤務にあたりました。そこまでしても、処理しなければいけない件数が膨大にありました。特に、保険金の査定は時間がかかりました。1度現地に行ってから対応しなければならないため、交通網が整備されていない中を土地勘のない社員が訪問するのは大変な仕事でした。震災は3月11日でしたが、休日対応はGWまで続いた程です。

特例の保険金支払い

生命保険の中には、地震による死亡や入院を免責としている商品があります。しかし、東日本大震災に限っては、多数の被害者が生まれたことから、この規定を適用せず、震災で亡くなった方にも保険金をお支払いするという特例措置がとられました。しかもこれは1社のみの対応ではなく、生命保険会社が足並みを揃えてこの措置を取ったのです。過去に東日本大震災以外の地震で死亡した方には保険金が払われていないので、「同じ保険なのにどうして!?」と思う方もいるかもしれません。しかし、保険約款には「地震が起きても保険金は一切支払いません」と規定されているわけではないのです。、「状況に応じて保険会社が必要と判断した場合は保険金を支払います」とされているので、災害時にはこのような特例が使われるのです。このような特例は、2014年に発生した御嶽山の噴火でも取られましたので、記憶に新しい方もいるのではないでしょうか。また、震災が原因で行方不明になった方がいる場合、死亡診断書がなくても保険金を支払う等の簡素化がされました。

保険会社としてのリスクヘッジ

保険会社内で使用される言葉に、リスクヘッジという言葉があります。これは、起こりうるリスクを最小限に抑えたり、避けることができるようにしたりといった対策を講じることを言います。東日本大震災では、保険会社のリスクヘッジの必要性を浮き彫りにしました。まず、保険会社には顧客のデータを集めた巨大システムがあります。万が一このデータが震災で破損してしまったら、お客様からいくら事故報告を受けても、契約内容を確認できない、保険金が支払えない等対応が後手後手になってしまいます。よって、データを都心部のみに集中させておくのではなく、あらかじめ国内の何箇所かでデータを共有しておく等して、仮に1箇所が潰れてしまっても、他で補えるように仕組みを整えておかねばならないことが分かりました。また、災害が発生しても多くの人間がそこで仕事できるように、働く人の数以上の水や食料を確保しておく必要性が分かりました。

地震リスク商品の売り止め

東日本大震災直後余震が続いたり、新たな地震の発生の恐れがあったため、地震リスクを補償する商品の売り止めが起こりました。要するに、顧客がどんなに希望しても、地震に関する保険に加入できないということです。勘違いして頂きたくないのですが、決して保険会社は意地悪で地震リスク商品を売らないと決めたわけではないのです。地震は広範囲に被害が及ぶものですから、1度大規模な地震が発生すると支払う保険金も格段に増えていくのです。お客様から貰った保険料に対して支払う保険金が大きければ、保険会社は赤字で倒産してしまいます。倒産してしまったら、地震以外の自動車や傷害等のお客様にも保険金をお支払いできなくなってしまいます。それでは、より多くの人が保険金を受け取れずに困ってしまいます。そのような事態を避けるため、支払う保険金が多額になると見込んだ場合は、売り止めを行うのです。ただし、保険会社によってこの判断は分かれるところがありますので、震災発生直後に売り止めした保険会社もあれば、震災後10日程経過してから売り止めした保険会社もありますので、場合によっては保険会社に確認が必要です。

自動車保険も手続きを簡素化に

震災に関る対応で、自動車保険の手続きも非常に簡素化されました。例えば自動車保険の解約は基本申し出た日付で解約になるのですが、震災発生直後に自動車保険の解約手続きを思いついた人なんて皆無です。よって、震災による津波で車が流されたという人は、どの日付の申し出であっても一律解約日を3月11日とし、7等級以上の人には津波による現車の滅失ということを理由にして中断証明書を発行しました。また生活の再建にお金が必要というお客様には、当座の支払いを抑えるために、一定期間保険料の支払いを待つという特例を発表しました。この特例のおかげで、最大6ヶ月まで自動車保険の保険料を支払わなくても済むことになりました。注意して頂きたいのが、時期が終われば猶予期間中の保険料は支払わなくてはいけないので、決して免除されたわけではありません。また、あくまで被災地域限定の制度なので、被害の少なかった北海道に住むお客様が震災の影響で仕事が少なくなって生活が苦しいから保険料が支払えないというのもなしです。とにかく、被災地域の人には手続きや保険料の面でたくさんの優遇措置が取られました。

地震保険に加入しましょう

東日本大震災で、新しく分かったこともありましたね。それは、埋め立て地域で起こった液状化問題です。建物は壊れていないけれども家が傾いてしまって生活しにくい・・・これは地震保険で対応できるリスクです。地震保険に加入していた人は保険金が貰えて幸運だったかもしれませんが、火災保険しか加入していなかった人にとっては大打撃です。震災から4年経過した今も苦しんでいる人はいるのではないでしょうか。保険会社も地震による建物の倒壊のリスクは説明していても、このような液状化によって建物に住みにくくなるというリスクについては説明をしていませんでした。よって、今後地震保険のパンフレットには液状化に関する説明が増えてくるのではないかと思います。いざ災害が起こってからではないと分からないことがたくさんありますし、加入したい時に加入できないという恐れもありますので、地震保険に加入していない人は是非加入を検討して下さい。