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契約手続きの無効・取り消しについて

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保険実務の真実

損害保険の実務を行う上では、やむを得ない理由で契約手続きを行ったものの、それを無効にしたり取り消し(キャンセル)したりすることが度々発生します。1人のお客様にとっては滅多にないことかもしれませんが、たくさんの契約を扱っていると中にはそのような面倒な作業を伴うものも出てきます。皆さんの中には、保険の契約は手続きが厳密そうと思っている方もいることでしょう。しかしながら、保険って正当な理由がある、あるいは正当な手順を踏めば案外なかったことにできるものなんですよね。無効や取り消しと聞くと旅行のチケットみたいですが、保険において無効や取り消しの場合キャンセル料のようなものは発生しません。保険は契約が有効に成立していて初めてお金を貰えるものですから、契約がなくなった時点でお金は払う必要はありません。そう、キャンセルになったら無料なんです。今回は契約手続きが無効になる、あるいはキャンセルになった事例についてお話していきます。

クーリングオフによる手続き

保険業法では、保険のクーリングオフを可能にしています。つまり1度交わした契約が無効になるということです。(ただし、自賠責保険のような強制保険については、クーリングオフ対象外になっています。他にも対象外の契約はありますが、ここでは割愛します)申込日もしくは書類を手続きした日のどちらか遅い日を1日目とし、それから8日以内に書面で申し出することでクーリングオフ可能となります。この手続きは、保険会社のパンフレットにも記されていることです。クーリングオフが認められれば、仮にその間保険料が口座等から引き落としになっていても、手続き終了後に返還されます。他の保険会社と契約手続きを交わしても構いません。クーリングオフの対応中に他の保険会社と契約手続きをしてはならないという禁止ルールはありません。むしろクーリングオフの手続きが終わるのを待っていたら無保険期間が発生するかもしれませんので、その方が余計怖いです。クーリングオフ完了後の新しい補償をどうするかについては、契約者が責任を持って対応しなければいけない部分です。

保険始期前のキャンセル

クーリングオフとは少し異なりますが、1度契約したにも関わらずある事情から保険始期前にキャンセルになるケースがあります。分かりやすいように、ポピュラーな自動車保険で説明します。 【例1】更新手続きをしたが、始期前に車が廃車 この場合、現在進行している契約の解約(場合によっては中断証明書の発行手続きも)と更新済み契約の取り消しが可能となります。始期時点で車が存在していないにも関わらず、自動車保険の契約を続けることはできません。そのままにしておくと、等級の不正な進行を認めることになるからです。そもそも補償の対象とすべき車が存在しないので、保険に加入する意味もありません。現在の契約は満期の1~2か月前に早期更新しておくのが当たり前になってきているので、弊害としてこのように既に更新済みの契約を取り消しせざるを得ないというケースが増えてきています。 【例2】更新手続きをしたが、始期前に契約者(被保険者)が死亡 例1は車が存在しないという理由でしたが、例2は契約者(被保険者)が亡くなってしまったという理由によるものです。被保険者は同居の親族がいればその方に等級を引き継ぐことができるのですが、亡くなったのが1人暮らしの方だったり、奥様と2人暮らしでその方が運転免許証を持っていないし車にも乗らなかったりすると、大事にしていた等級は捨てざるを得なくなります。このようなケースも、実務では取り消しを行います。しかし、等級が不要ということであれば、更新契約の保険料を敢えて支払わずに放置しておくと、勝手に保険料不払いで契約解除になりますので、契約がなくなるという結果は同じです。むしろ契約解除の方が余計な書類も手続きもいりませんので、楽かもしれません。

保険始期後のキャンセル

始期日を過ぎて実際に補償が開始しているにも関わらず(あるいは、保険料を既に支払っている)、キャンセルできる場合があります。【例1】自動継続で契約成立したが、既に他社で加入済み 一部の保険会社の自動車保険には、自動更新の特約がついています。更新時に契約者と連絡がとれなくなってしまい、無保険状態になってしまうのを避けるため勝手に契約が更新されるというサービスです。これは契約者から「来年は他社で更新する」という申し出があれば何も起こらないのですが、連絡もせずそのままにしておくと勝手に証券が届いて、保険料も引き落としになって・・・という事態になります。契約を更新しないから放っておけば良いだろうではなく、更新しないからこそ敢えて連絡が必要なのです。「更新しないから連絡がとりにくかった」とか「連絡がとれなければ諦めてくれるだろう」と思っていたら、取り消しだの自動更新だのに巻き込まれる羽目になりますよ。 【例2】他社と二重契約で始期日訂正が必要 他社から切り替えたけれど解約日を間違ってしまった等の理由で、保険期間が重複している場合ですね。1週間程度なら重複を認めている会社もあるそうですけど、重複期間が1カ月や2カ月となると訂正しなければなりません。私の勤務していた保険会社では始期日の訂正という作業ができなかったので、1度契約を取り消しし、正しい始期日で再契約という流れをとっていました。

他の事例にはどんなものがあるか?

これまでの例は分かりやすいかと思って自動車保険で説明しましたが、自動車保険以外でも無効や取り消しといった実務は有り得ます。滅多にないことかもしれませんが、始期直前に店舗が燃えてしまったとか、支店を閉鎖することになったとかで始期時点で建物が存在していなければ火災保険の取り消しとなります。また、傷害保険で契約者が始期直前に亡くなってしまったとかも、正当な取り消し理由になります。更にマニアックな例ですが、団体扱いの保険で社員専用の安価な賠償責任保険の申し込みを受け付けたものの、始期前に退職したために取り消しをしたなんてこともありました。本来取り消しの手続きは安易に行うものではありませんが、被保険利益が存在しないにも関わらず保険をかけ続けることはできませんので、結局は保険会社を通せば手続きできるようになっています。取り消しや無効には署名捺印をしなければならない書類も多く、場合によては廃車を証明する書類であったり、取り消し契約の証券を提出しなければならなかったり等とにかく手間が多いです。もし皆さんがこれらの手続きにあてはまったとしたら、イレギュラーな手続きのため手間がかかると思って諦めて下さい。(苦笑)

面倒なことが起きたらすぐ相談を!

毎回契約の度に取り消しする羽目になる人はそういないと思います。だからこそ、自分が1度そのような立場になってしまうと「どうしたら良いの?」と悩んでしまうかもしれません。もしかすると、保険のことなんて全く思い出さない人もいるかもしれません。でも、時間が経ってからでも良いです。気づいたら保険会社か代理店に電話をして下さい。契約者の立場では分からなくても、プロはこのようなイレギュラーケースを多少なりとも経験していますから、アドバイスができるはずです。分からないからといってそのままにしておく方が、後々余計なトラブルを招くことになる気が致します。保険会社も代理店もお金にならないことだからといってないがしろにすることはありません。面倒なこと、自分ではどうしたらよいか分からないことが起きたら、すぐ相談してみて下さい。