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融通のきかない自賠責保険 -任意保険も必要です-

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自動車保険には必須!の自賠責保険

保険会社にとっての自動車保険とは、任意の自動車保険と国が運営する自賠責保険の2種類があります。自賠責保険は車がある限り必ず加入しなければいけない強制保険なので、自動車保険とほぼセットで取り扱われます。しかし、そのルールや事務手続きは任意の自動車保険と異なる点が多く、正直「面倒だなあ」と思う手続きもやらなければいけないものがあります。今回は、保険会社勤務時代に手こずらされた自賠責保険の裏話をさせて頂きます。

自賠責保険は基本、誰でも加入している

自賠責保険の正式名称は、「自動車損害賠償責任保険」と言います。一般の保険でしたら見積もりや申込書に必要事項を記入して契約するのに対し、自賠責はそのような加入手続きというものが存在しません。新車であれば納車の時に車検証と一緒に自賠責証明書が備え付けられていますし、車検の時であれば車検の費用と一緒に料金を支払い新しい自賠責証明書がダッシュボードの中に入れられているので、「私って自賠責保険に加入しているの?」と加入したことすら理解していない人もいるのではないでしょうか。自賠責保険は、車の運行にあたり第三者に怪我を負わせた、死なせたといった場合に、加害者の賠償資力を確保するために加入するものです。一般車両であれば、自賠責保険に加入せずに公道を走ることは許されません。ごく稀に公道を走ることのない農耕作業車であれば加入をしなくても良いとされています。(加入をしなくて良いが、所有者の希望があれば加入することは可能)よって、俗に言う「無保険」とは、任意保険がかかっていない車両のことであり、車検切れ等の特殊な事情がなければ事故が起きても自賠責から最低限の保障はされますので、自賠責証明書を確認してみましょう。ただし、自賠責はその字面からも分かるとおり、あくまで賠償、つまり第三者への賠償を目的とする保険です。ゆえに、自分の車両の損傷や怪我は自己負担になりますので、注意して下さい。

自賠責保険の面倒な点①

今回タイトルに「融通のきかない自賠責保険」と掲げましたが、何が融通がきかないのか具体例をあげていきたいと思います。まず、自賠責保険の解約は、契約者の希望だけではできないということです。契約者が「車は廃車にはしていないんだけど、もう絶対乗るつもりはなくて車庫に置いている」と言っても、廃車を証明する書類もしくは他人に譲渡したことが分かる書類がなければ解約は出来ません。車が存在している限りは第三者に被害を与える可能性があるから、だそうです。また、仮に自賠責を二重で契約してしまった場合は、重複解約という手続きをとるのですが、解約するのは必ず自賠責の終期(任意の自動車保険で言うところの満期)が遅く来る方と決まっています。しかも、どの保険会社の証明書番号何番と重複している等も記載しなければいけません。契約者が勝手に選ぶことができないのです。お客様にこれらを説明する時に「動かさないんだから解約してもいいじゃないか」や「もう1つの契約の番号が今すぐ分からない・・・」等ごねられることも若干あるのですが、「申し訳ありませんが、国の方針なので当方ではどうにもできません」と国の運営方針を言い訳に数々の場面を乗り切ったことが思い出されます。

自賠責保険の面倒な点②

融通がきかない点その2は、自賠責には契約の取消という概念が簡単には適用されにくいところです。例えば自賠責保険を更新済みの車が事故で廃車になってしまい、始期前に車が存在しない状態になったとしましょう。この場合、任意保険であれば契約時点で車両がないのですから仮に契約をしていたとしても契約は取消可能(被保険利益がないため)、支払い済みの保険料があれば全額返還となります。しかし、この場合自賠責は「始期前解約」という手続きをとることになります。保険料が全額戻ることはありません。1日も保険をかけていないにも関らず、です。これには代理店さんでも納得していない人が多く、解約返戻金の金額を知って「こんなに少ないの?」「お客さん、損してるよね」と嘆いていました。自賠責保険の契約の取消が出来るのは、代理店が保険のシステムの操作を誤って破棄すべきデータを契約有効にしてしまった時くらいなものです。そんな単純なミスでさえ、保険会社の社内では社員が簡単な経緯書(なぜミスをしてしまったのか云々)を書かされるのですから、自賠責保険のトラブルには極力巻き込まれたくないなあと思っていました。多分ディーラーを担当している保険会社の事務担当者はこんなトラブルは毎度のことでしょう。

自賠責保険の面倒な点③

自賠責保険の保険料率が変わる時も面倒です。自賠責保険の保険料は、車種と保険期間に応じて決められており、どの保険会社で加入しても保険料は同じです。しかし、数年おきに事故の発生状況や、保険金の支払額を参考にして保険料率を変更します。保険料率の変更は4月1日付けで変更されることが多いのですが(というか、私が勤務していた時はこの日付以外で変更されることがありませんでした)、自賠責保険は早ければ1~2ヶ月前から契約が可能です。しかし、そのような事情も加味せず、国が新しい保険料を発表するのが3月10日とか結構ギリギリだったりするのです。結局早めに4月1日からの自賠責保険を契約したい場合は、新しい保険料が分からないけれどとりあえず今までの保険料で契約を成立させて、新しい保険料が分かったら差額を徴収or返還するという何とも面倒な手段を取っているのです。新しい保険料を全部決めてから発表すればよいものを、中途半端にリリースするのですから、現場は混乱します。保険会社には、保険料に差額が発生しているお客様のデータを抽出してDMを送り、過不足分のお金のやり取りや新しい自賠責証明書の発行するという余計な仕事が増えることになります。全くこのような行為は、資源の無駄でしかありませんね。

自賠責保険に力を入れる理由

自賠責保険は、どの保険会社で加入しても顧客にとっては保険料が一緒なのですから「どこで入っても同じだろう」と思われますが、保険会社はしのぎを削って自賠責保険の獲得に力を入れています。自賠責保険の保険料は1度保険会社の財布に入るのですが、そこから更に国に納付します。しかしこの間にはある一定の期間が存在しており、保険会社は国に精算するまでの期間に運用ができるわけです。運用できる資産は、大いにこしたことはありません。保険会社の社員は、他社の自賠責を取り扱っている代理店に、自社の自賠責保険を取り扱ってもらえないか交渉したりします。また、他社からそのような攻勢をかけられても揺るがないように、自社の基盤をしっかりと固めておくのも仕事になります。ちなみに、自賠責保険は金額に関らず代理店手数料は1,600円です。代理店にとっても、サインいらず説明いらずの自賠責保険は少ない手間で確実に稼げる商品ですから、力を入れているところも多いです。

自賠責保険と任意保険の違い

両者の関係を分かりやすく言うと、自賠責保険の足りない補償を補ってくれるのが任意保険です。自賠責保険が支払う保険金は死亡で最高3000万円、障害で最高120万円、後遺障害で最高4000万円です。しかし、これだけでは金額が足りないのはお分かりですね?怪我をした相手が年収何千万、何億も稼ぐような高収入の人だった場合、残された遺族に対して3000万円を支払ったところで、足りないと言われるのは目に見えています。一方、任意保険は対人賠償は最高無制限まで支払われます。また自賠責保険では支払われない対物賠償、人身傷害、車両等もまかなうことができます。自賠責保険は、あくまで相手へ賠償すべき最低限の金額を保障するものです。「自賠責保険があるから、任意保険なんて加入しなくても大丈夫!」という発想は非常に危険ですので、もしそんな人が周りにいたら直ちに修正して下さい。