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保険会社が判断に迷うこと

保険会社の判断材料

保険会社の業務は事務に関してはマニュアルが作成されていますし、事故対応に関しては約款や判例タイムズがありますので、それを参考に事故の過失割合を決めます。基本的には全国どこで対応しても同じ対応ができるようになっているのですが、特別な事情がある場合にはマニュアルや約款だけでは判断がつかず、担当者の判断に委ねられることがあります。どうしても難しい場合は、現場で担当者だけで判断せず、商品開発部やコンプライアンス部といった別の部署に相談し、指示を仰ぐこともあります。今回は保険会社が思わず「ううむ・・・」と唸ってしまうくらい判断を悩んでしまう事柄についてご紹介します。

家族の定義①二世帯住宅

自動車保険にとって、「同居」か「別居」かというのは重要な意味を持っています。同居の親族であれば、等級継承が出来る関係にあるということです。でも、同じ屋根の下で玄関も別、台所も別、勿論トイレもお風呂も別という家に住んでいる両者を同居と言えるでしょうか?この場合は、明らかに別居です。一方で玄関は別れているけれどもトイレとお風呂だけ共有とか、玄関は同じでも中はそれぞれの家庭ごとに区分されているとか、建て方はその家ごとに異なるわけで、考えようによっては同居とも言えるし別居とも言えるし・・・みたいな家があるわけです。一応保険会社でも二世帯住宅のガイドラインは考え方のマニュアルがあるのですが、それに当てはまらない事例となると頭を抱えてしまうことになるでしょう。二世帯住宅に関して同じように悩んでしまうのが、火災保険です。基本的に火災保険で保険をかける対象になるのは、1つの建物に対してです。1つの敷地内に2つの建物が建っているのであれば分かりやすいのですが、2つの世帯が家をくっつけて住んでいるとなると、1つの建物と見るべきなのか、それとも世帯ごとに分けるべきなのかと悩むことになります。勿論これも1つの建物の定義が保険会社ごとに決まっていますので、それに当てはめれば良いのですが、建て方によっては即答できない場合もあるでしょう。

家族の定義②内縁関係

保険の手続き上で、契約者本人と配偶者は同列と見なされます。よって、契約者本人に代わって配偶者が手続きすることは、あまりハードルが高いことではありません。さすがに代筆は認められませんが、「契約者山田ハジメ代理人妻山田サチコ」くらい丁寧に書いてもらえれば手続きとしては有効です。ちなみに結婚前で同棲しているカップルは、他人とみなされます。婚約者、同棲相手という立場は、保険では他人なのです。では、籍は入れていないけれども、長年一緒に暮らしている夫婦同然の関係にある人達、つまり内縁関係にある人達はどのように扱われるのでしょうか?まず、内縁関係にあるかどうかの確認をとります。例えば、名字は違うけれども結婚式を挙げた写真があるかどうか、保険証で内縁の妻が扶養に入っていることが確認できるかどうか、住民票で続柄が<未届けの妻>になっているか等、内縁関係を証明する根拠というものは意外とあるのです。しかし、書類が存在しなかったり、本人たちが内縁と申告しているだけで周辺住人から聞き込みをしても内縁と確認できない場合もゼロではありません。その時は集められた情報だけで判断されることになりますので、担当した人によって内縁を認めるかどうか結果は異なるかもしれません。考えてみればカップルは必ず結婚しているとは限らず、人によっては内縁だとか、同性だとか色々あるんですよね。以前東京都渋谷区で同性カップルをパートナーと認める条例が制定されたという報道がありましたが、仮にこのような条例があっても保険の手続きにおいては同性カップルは他人です。保険は同性カップルを配偶者とみなすほど柔軟に対応していません。手術の同意書でしたら、この証明書があれば有効みたいですがね。日本全国どこでもこの類の証明書が発行されるようなことにでもなれば、対応するのかもしれません。(いや、しないかも・・・)

特殊な車の保険金額

自動車保険の車両保険、火災保険の建物や家財の保険金額、いずれも保険の対象となるものの価値がいくらかを算出した上で加入することになります。自動車保険は型式と初度登録年月さえ分かれば、保険会社のシステムで一般的な車両価格を知ることができますし、仮に古い車であっても中古車情報誌等から得た情報で参考価格は分かります。建物も年次別指数法(建物の建築価格と物価係数で評価する方法)、もしくは新築費単価法(㎡あたりの単価に面積を乗じた結果を±30%の範囲で調整して評価する方法)の2種類がありますので、その方法を使えばどんなに古い建物でも評価できます。家財は本来であれば冷蔵庫が■円、テーブルが▲円、服が●円・・・と加算していくのが正しい評価方法でありますが、現実的なやり方ではありません。保険会社が家族構成と年代から大体の家財の額を算出した結果がありますので、それを参考に家財の保険金額を決めることになります。よって、基本的に物の評価をすることはそれほど難しくないのです。思わず悩んでしまうのは、消防車や除雪車といった特殊な車両です。購入直後の新車であれば、勿論購入費用で評価するのが妥当です。1度価格が決まれば、後は減価償却させて更新していけば良いので楽です。しかし、そんな知識は代理店も持っている知識ですので、保険会社に寄せられるのは中古譲られた車両等、個別の事情のある案件ばかりです。除雪車に至っては冬期間の稼働時期のみ契約となるので、前契約があるわけでもありません。そんな時の対応方法として実践していたのは、事故のアジャスター(査定担当)に相談することです。事故が発生した時に査定するのがアジャスターの仕事ですから、本来事故が起きた場合にする査定を理由を話して資料を元に算定してもらいました。勿論アジャスターは日々大量の案件を抱えていて暇ではないので、すんなりやってもらえるというわけにはいきませんが。しかし、契約時点で適当な評価をしてしまうと、トラブルになるのは目に見えているので、契約時からあらかじめ予防線を張っておくことも必要なのです。

保険は万能ではない

ここで、悲惨な事故例を紹介します。お客様が車を購入→納車日に現物を確認→納品書にサイン→後は保険の手続きも済ませようと店舗に戻った瞬間・・・ドン!事故発生です。駐車場に入ってきた別の車が、あろうことか納車直前の車に衝突してしまったのです。これには加害者も被害者も驚くばかり。新しい車は申込書にサインをする直前の段階でしたが、まだ契約は完了していませんでした。停車している車と衝突なので、ぶつけた側に100%の過失。また、状況から考えぶつけられた側のお客様には契約する意思があったことが伺えるので、決して補償されないというわけではなかったのですが・・・。揉めましたよね。修理したところでお客様が乗ってもいないうちから事故車。全損にでもなって特約でもあれば新車に買い替えられる見込みもありましたが、全損になるほどの傷でもなく。お客様が「新車の状態で返してほしい」と言う気持ちは痛いほど理解できるのですが、正直どう約款を解釈しても自動車保険では何の役にも立たないのです。保険会社が悩んでも、お客様の望む結果が出せるとは限りません。約款を捻じ曲げて解釈することはできませんし、特例を認めることも許されません。場合によっては自分の望む回答が得られず「こんな保険やめてやる」と思うことがあるかもしれません。しかし、保険は決して万能ではなくできることとできないことがあり、その回答を導き出すために保険会社や代理店の社員が色々悩んだりしている実態があるということをご理解いただきたいと思います。