実際に起きた代理店の不祥事
私が保険会社に勤務していた数年間のうちに、代理店の不祥事をたくさん見てきました。中には新聞報道されるような大きな事件もありました。今回は私が実際に現場で遭遇した代理店の不祥事を3つご紹介します。
保険料領収証の破棄
契約者から保険料を受け取った場合、代理店は保険会社から交付される所定の保険料領収証を発行し、契約者に渡す決まりになっています。現在は殆どの契約でキャッシュレスが進んでいるため、代理店が領収証を発行する機会は10年、20年前と比べると格段に減ってきています。しかしながら、口座引き落としができずに集金した場合や、銀行振込みの入金に対して領収証の発行を希望された場合には発行せざるを得ませんので、どの代理店も発行する頻度は少なくとも所持だけはしています。保険料領収証は契約者用、代理店用、保険会社用に別れています。契約者用は、勿論お客様に渡すものです。代理店用は代理店が帳簿をつけたりする時に使われ、代理店向け監査の時には保険会社の社員が資料として使用・チェックします。保険会社用は保険料領収証綴りが回収された際に、適切に使用されているか(領収証の発行日が逆順になっているものはないか、不自然な使用の痕跡がないかどうか等のチェックをします。保険料領収証は代理店の不祥事をチェックする上で非常に重要なツールであり、管理・使用・返却に至るまで細かいルールが定められています。この保険料領収証をあろうことか全部使い終わったからといって、控えごと全部捨ててしまった代理店がいました。保険料領収証には使用期限があり、使用期限を迎えたものは未使用のページが残っていても保険会社に返却しなければいけないのですが、使用期限が来ても返却がされていないので問い合わせしたところ、「使い終わったので破棄しました!」とのお返事が。これには社内が騒然としました。その代理店自体は以前からある代理店ですが、新しく入社された人で、「保険料領収証は破棄しては駄目」という認識がなかったらしく、誰にも確認をとらず破棄したそうです。たった今シュレッダーしました!とか、今日のゴミとして捨てちゃいました!とかであれば、シュレッダーの切りくずの山を漁ったりゴミ袋を回収したりと手立てはあったのですが、破棄したのは随分前ということで、その領収証の残骸のカケラも見つからず。サービス部から代理店の指導不足ということでお叱りを受け、代理店と再発防止策について話し合い、始末書を提出させられました。(再発防止策と言っても、新人教育をきちんと行う、くらいしか最初は思いつかなかったのですが、他の代理店でも同じことが起こりえるかもしれないということで注意喚起の文書まで作成させられました・・・)領収証って貰ったらポイって捨てる人も多いかもしれませんが、発行している側からすると大事なものなんですよ!
保険料の立替
お客様に地震保険の保険料を集金すると言えなくて、代理店が立て替えてしまったという事件がありました。契約当初は代理店さんもお客様も「契約時に2年分の地震保険料をまとめて払う」と認識していたそうなんですが、実はそれ1年分の地震保険料だったんですよね。で、代理店さんがそのことをお客様に言えなくて自分で立て替えたのですが、後日送られてきた地震保険料の控除証明書を見て「こんなの払ったっけ?」というお客様から問い合わせがあり発覚しました。悪いことをすると、どこかでバレてしまうものなんですよね。改めてお客様には一連の流れを説明して保険料を支払って頂き、代理店が立て替えた分は代理店に返金ということになりました。お客様も「言ってくれたら支払ったのに・・・」と仰っていました。代理店さんも決して不正を起こそうと思っていたわけではなく、お客様に怒られるんじゃないかと怖がってしまった結果起こってしまったんですよね。これは保険業法でいうところの特別利益の提供に当たるので、保険料の割引をしたのと同じような行為と認定されます。もし手元に謎の書類やお金に関する通知書があったら、チェックしてみましょう。そこに代理店の不正が隠されているかもしれません。
勝手契約
自動車保険の募集方法の1つに、電話で更新契約を募集する方法(電話募集、テレフォン募集等と言われます)があります。手順としては事前に契約者宅に必要書類を送付→重要事項について本人に電話で説明→書類の内容に誤りが無いことを確認したら、代理店が手元の申込書に日時を記入して契約成立→日時の入った正式な申込書を契約者宅に送付という流れです。この募集のポイントは、契約者本人と話すことです。本人が忙しいからといって、配偶者やその家族に説明しても駄目です。しかし、このルールを無視して、本当は配偶者とやり取りしたにも関らず、書類は「本人に説明しました」という体裁にして手続きをしてしまう代理店がたまにいます。何故発覚するかというと、自宅に証券が届いてから「契約した覚えがないのに何で証券が届くのか」「もう他の会社で契約しているからキャンセルしてくれ」と契約者本人から直接問い合わせが入るからです。配偶者は良かれと思って代わりに契約し、代理店も配偶者がOKと言ってるから大丈夫だろうと気軽に考えて電話募集をしてしまったのです。しかし、当の本人は全く別のことを考えており、知らない間に勝手に契約されていたというオチです。電話募集は確かに代理店、契約者双方が対面せずとも手続きを終えられる手軽な募集形態ですが、一方でそのルールを破ってしまうと不祥事に繋がるという両刃の剣のようなものです。ちなみにその代理店は厳重注意で終わり、今も募集を続けているはずです。(ペナルティを払って終わりのケースかもしれません)
保険料を懐に・・・
集金した保険料を保険会社に精算せず、自分の懐に入れてしまった代理店もいました。発覚した経緯は、お客様から「契約したのに証券が届かない」という問い合わせの電話です。今でこそ自動車保険は口座振替やクレジットカード払いが主流で、現金を取り扱うようなことはありません。しかし10年近く前まで、支払っておかないと不安だからと言って契約時に保険料を支払ってしまいたいという方(特に高齢者の方に多かったです)が多く、キャッシュレスと集金が混在していた時のことです。そのお客様は保険のことは何でもその代理店に相談したので、まさか保険会社に直接問い合わせするなんて思っていなかったんでしょうね。証券が届いていないのを「保険会社のミス」「発行したけど郵便配達が間違えているんじゃないか?」と交わし続けていたため、不審に思ったお客様が直接保険会社に連絡をしてきたという流れです。1年間分の自動車保険料をまとめて支払いだったため、保険料は10万円以上。結構な金額ですよね。眼がくらんでしまったのか、元々このお客様から保険料を騙し取ろうとしていたのか真意は分かりませんが、発覚直後に代理店の事情聴取、交わした申込書の内容確認(申込書が保険料を高くしたいがためのいい加減な内容になっていないかの確認と、お客様が本当に契約したい内容であっているかどうかの確認)、お客様への説明等を行い、最終的にはお客様の契約を成立に持ち込み、該当の募集人は解雇となりました。たまたま事故がなかったからよかったようなものの、もし事故があればこの方は知らず知らずのうちに無保険になっていたわけですから、それでまた対応が複雑になるところでした。証券は申込書に不備がなければ、契約成立後大体1週間~10日程度で手元に届くはずですので、1ヶ月経っても届かない等のトラブルがあれば、早急に問い合わせされることをおすすめします。
知らず知らずのうちに・・・
代理店の不祥事の中には、知らず知らずのうちに契約者が巻き込まれている場合もあります。昔から付き合いのある代理店であっても、結果的にお客様を裏切ったようなケースがありました。代理店の不祥事が、契約者の立場であるご自身と意外と近いところに存在しているということを分かって頂ければと思います。