保険金額が分からない=見込みで契約
企業が保険をかけたいもの中には、保険期間中にそのもの自体の価値や価格や総額が変わってしまうために、契約時点で保険金額○○円と決め付けることができないものがあります。保険といえば、契約時点で保険金額を決めて、それに応じた保険料を支払うのが一般的です。しかし、保険の種類によっては、企業のニーズにあわせて「見込み」で契約することが可能になっています。具体的にどんなものがあるか見ていきましょう。
工事業者が加入する保険
工事に関する保険は、大別すると「建設工事保険」「土木工事保険」「組立工事保険」に分けられます。違いとしては、家やビル等建物を建てる工事は建設工事保険、土を掘り返したり盛ったりと地面に手を加えるような工事は土木工事保険、建設工事と土木工事のいずれにも属さない機械の設置等は組立工事保険に加入することになります。工事に関する保険は、いずれも工事の請負金額を保険金額とします。これに賠償責任保険等のオプションを付け加える等して、保険料を算出します。請け負った仕事の度にその請負金額を元に保険に加入することは可能ですが、一般企業であれば受注は1件だけとは限らず、複数あるものが普通です。その度に保険料を計算して、契約して・・・となると、企業側も代理店側も手間がかかります。しかし、見込みで契約すれば手続きは少なくて済みます。どうやるのかというと、契約時点でとりあえず「○○万円くらい」と予想される年間見込みの請負額を決めます。既に創業から何年も経っている企業であれば、昨年度の請負金額を参考にするのもありです。これで1年間の補償を確保し、満期に実際の請負額との差額を精算し、契約終了となります。契約者の希望があれば、満期で精算しない契約方式も可能です。その場合、見込みで算出した請負金額が実際の請負金額よりも多ければ保険料は得をしますし、逆に見込みで算出した請負金額が実際の請負金額よりも少なければ保険料は損をします。実際の請負金額にあわせた契約にしたい、最初に保険料を確定させておきたい、満期に精算するのが面倒等企業によってニーズは様々ですから、保険会社は色々な契約方式を用意しています。
旅行者が加入する保険
見込みで契約する保険には、旅行に関する保険もあります。まずは、ツアーを企画する旅行会社が手配する保険です。旅行会社が企画するツアーの参加者は、旅先での怪我やトラブルに備えるために旅行傷害保険に加入しています(保険料はツアー料金に含まれているので、旅行者自身は加入したつもりはないと思います)工事と同様、ツアーの申し込み客が何人いるかは契約時点ではわかりません。よって、見込みで契約し、事後に精算する契約方式がとられます。ちなみに事後の精算については、毎月数字を報告して毎月保険料の差額を支払うもの、毎月数字を報告するが精算は満期だけのもの、数字の報告も支払いも満期に行うものの3パターンに分かれます。どのパターンを選んでも、保険料は同じです。私が在職中には、水産加工会社の契約で、漁船に乗っている乗組員に旅行保険をかけるという契約がありました。漁船で働いている間の怪我を補償するタイプのもので、年間何人もの外国人労働者を雇うため、加入者の名簿は国籍入り乱れたものになっていました。外国人でも日本人でも同じ補償内容であれば、保険料は一緒です。しかし事故が発生したら、最悪現地の言葉で保険金の支払い対応を進めなければなりません。日本語で補償内容を説明するのも大変なのに、異国の言葉となると説明も難しくなるし、納得してもらえず交渉が何年にも渡ってしまう等、色々面倒なことが多いです。
フリート契約者が加入する保険
フリートとは、自動車保険で使われる用語です。同一の者・企業が所有(長期に貸し出しを受けている場合も含む)する車が10台を超える場合、保険料を計算する時は等級ではなく過去の支払い保険金等を踏まえた特別な割引を使用します。事故が少ない時はメリット○%(保険料割引)、事故が多い時はデメリット△%という風に呼ばれます。車をたくさん持っている事業者は、1年で増減する車の台数が何十台、時には何百台にもなります。しかし、その都度保険を手配するのは面倒。そこで「全車両一括付保」「オールインワン」と呼ばれる契約方式を利用しています。契約時点で、車種に応じた補償内容(対人賠償○○円、対物賠償○○円等)を決めておきます。そして、保険期間中に増えた車については自動的にその補償が適用されることとし、毎月車の増減を保険会社に報告します。この方式をとれば、保険の手配を待たずとも車を業務に使用することができるので、業務に支障をきたすことはありません。ほとんどのフリート契約者はこの契約方式を採用しているのではないでしょうか?やり方としては、見込みで契約するものと似通ったものがあります。
見込み契約の注意点
見込み契約の場合、保険会社に嘘の報告をして保険会社を騙すこともできないわけではありません。保険料の追加精算をしたくないからと、「偶然請負金額と見込み金額が同じでした!」なんて報告をする契約者もいるかもしれません。実際に保険の契約は千円単位で契約しますから、四捨五入した結果たまたま同じ数字になってしまったということはあるかもしれませんが、毎年売上や利用者の数が同じなんていうことはまずありませんよね?よって、見込み契約の場合は決められた日にきちんと報告をしてもらうこと、報告を誤ったり偽証しようとすると保険金を支払ってもらえない可能性があることを契約者に注意しておく必要がありますし、それを管理する代理店にも肝に銘じておくよう指導しておくことが必要です。
他にもある、報告する方式の保険
倉庫に保管している商品や在庫に火災保険をかけたい場合も、この方式が使われています。スキーに関連する職種では秋から冬にかけて在庫が増えますし、氷屋さんが夏場にストックしている氷の量は半端な数ではありません。これらも契約時点で正確な数値が把握しにくいものです。基本的には請負金額、在庫の金額、売上高、人数といった変動する数値を持つ者に保険をかけたい時には、この方式の出番だと思って良いです。最近では肉フェスやらB級グルメ祭りのような多数の入場客がいるイベントもありますから、もしかするとそれらのイベントでもこの保険が手配されているかもしれません。
これからの保険
見込みでの契約の話、少しはイメージが掴めましたか?保険は本当に色々な種類があります。一般の方にとっては「こんなの契約できるの?」と思うことでも、保険会社はあらゆる商品、あらゆる方式を用意していますので、とりあえず保険に加入したいと思うようなことがあれば、悩むより先に問い合わせをしてみることをお勧めします。新しい保険商品として気になるのは、今話題の小型無人機「ドローン」ですね。ドローンが壊れてしまった場合、ドローンが人や物にぶつかって危害を加えてしまった場合、はたまたドローンが行方不明になってしまった場合、盗まれてしまった場合等、ドローンの所有には色々なリスクが想定されます。既に三井住友海上と東京海上日動がドローンに関する保険を販売する予定があるといったニュースも報道されております。しばらくは企業向けでしょうが、そのうち一般に普及するようになれば、個人でドローン保険に加入できる日も来るはずです。保険も時代の流れにあわせてどんどん新しい商品が生まれていっています。頭でっかちに考えず、「こんな保険ないかなあ?」と思うものがあれば、どんどん保険会社に意見を言ってみるのも良いかもしれませんね。